葬儀の仕事をしていると、多くのご家族との出会いがあります。
その中でよく耳にするのが、「もっと話をしておけばよかった」「感謝の気持ちを伝えておけばよかった」という後悔の言葉です。
家族だからこそ、普段は照れくさくて言えない言葉があります。
その代表が「ありがとう」ではないでしょうか。
ある日、80代のお父様が体調を崩し入院されました。
ご家族は「きっとまた元気になって帰ってくる」と信じていましたが、病状は徐々に悪化していきました。
そして病院から、「ご家族を呼んでください」と連絡が入ります。
急いで病院へ向かう車の中で、長男の方はさまざまな思いが頭をよぎったそうです。
「父には本当にお世話になった。でも、一度もありがとうと言ったことがない。」 子どもの頃は家族を支えるために一生懸命働く父の背中を見て育ちました。
社会人になってからも困ったときには助けてもらい、結婚後も孫の面倒を見てもらうなど、多くの支えを受けてきました。
しかし、感謝の気持ちはあっても、それを言葉にする機会はありませんでした。.
病室には家族全員が集まりました。
お父様の意識は薄れていましたが、まだ声は届く状態だったそうです。
長男の方は父親の手を握りながら、ゆっくりと話しかけました。
「親父、今まで本当にありがとう。」
「家族のために頑張ってくれてありがとう。」
するとお父様はゆっくりとうなずき、穏やかな表情を浮かべたそうです。
そしてその数時間後、ご家族に見守られながら静かに旅立たれました。

後日、葬儀を終えた長男の方がこんな言葉を話してくださいました。
「もちろん悲しい気持ちはあります。でも、最後にありがとうを伝えられたことだけは本当に良かったと思っています。もしあの時言えなかったら、一生後悔していたかもしれません。」
その言葉がとても印象に残っています。
私たちは日々の忙しさの中で、大切な人への感謝を後回しにしてしまいがちです。
親や配偶者、兄弟姉妹など、近しい存在ほど「言わなくても伝わっているだろう」と思ってしまうものです。
しかし、言葉にしなければ伝わらない気持ちもあります。
人生にはいつか必ずお別れの時が訪れます。
その時になって後悔しないためにも、感謝の気持ちは元気なうちに伝えておくことが大切です。
「ありがとう」
たった五文字の短い言葉ですが、その一言が相手の心を温かくし、残された人の心も支えてくれます。

葬儀の現場で多くのご家族を見てきたからこそ感じることがあります。
それは、最後に感謝を伝えられた人は、深い悲しみの中にもどこか穏やかな表情をされているということです。
もし今、伝えたい相手がいるのであれば、特別な日を待つ必要はありません。
今日という何気ない一日に、「ありがとう」を伝えてみてはいかがでしょうか。
その言葉はきっと、かけがえのない思い出として心に残り続けるはずです。
家族葬の結家
小林 孝教
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